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乳がんの概要と標準治療

乳がん患者は増加しています

2014年1月にいずみの病院外科に赴任した船越です。 今回は乳がんの概要と標準治療についてお話します。

厚生労働省の発表によりますと、2012年の死亡数は約126万人。 そのうち悪性新生物(がん)の死亡数は36万963人で、死亡総数の28.7%を占め、 死因の第1位になっています(2位 心疾患、3位 肺炎、4位 脳血管疾患、5位 老衰)。

独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターや、「がんの統計’13」(公益財団法人がん研究振興財団発刊)によると、 2008年新たにがんと診断された患者数は74万9767人。 うち、乳がんは約6万人で、女性の第1位です。 統計上、2人に1人ががんに、14人に1人が乳がんになるという計算になります。 がんになる方は増えており、その中でも特に乳がんは増えています 【図1】。

部位別がん粗罹患率 年次推移(1980-2008)女性

【図1】 部位別がん粗罹患率 年次推移(1980-2008)女性


早期発見で完治をめざしましょう

女性の部位別・発症年齢別がん罹患率 2006年

【図2】 女性の部位別・発症年齢別がん罹患率 2006年



マンモグラフィーとは、 乳房のX線撮影のことです。
当院では、プライバシ−確保に重点をおいた撮影室で、
認定を受けた女性技師が撮影をいたします。

乳がんは、女性に多い大腸がん、肺がん、胃がんに比べて、若い年齢に多いのが特徴です。 10代後半からなだらかに上昇し、40‐50歳にピークとなります。 働き盛りや子育て世代に多いのです【図2】。

ピンクリボン運動(乳がんの正しい知識を広め、検診の早期受診推進などを目的とした世界規模の啓発キャンペーン)や 乳がんになった芸能人がマスコミなどに取り上げられたこともあり、 検診の重要性や家族性乳がんについては皆さん聞いたことがあると思います。 最近ではハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが予防的乳房切除術を受けたことでも話題になりました。

乳がんは早期発見と適切な治療を受けることによって、完治が見込めるがん腫です。 早期発見のためには家族性乳がんが考えられる方は20歳前後から、その他の方は30歳から自己触診を、 40歳以上になればマンモグラフィー検診が勧められています。

2人に1人がどこかのがんに、14人に1人が乳がんになる時代です。 「私は大丈夫」という不思議な自信は持たずに、健康に気遣い、自己触診と検診を受けていただきたいと思います。


治療は患者さんに合わせて最適な方法を選択します

乳がんの治療はそのがんの種類によって治療法が異なります。 基本は薬物療法・手術・放射線療法ですが、その種類や拡がりによって治療の主軸や順序、方法が大きく異なります。 そのため、乳がん患者同士でいろいろと話をしても、「自分はそのような治療法は受けていない」ということがよくあります。

乳がんは種類として、まず非浸潤性乳管がんと浸潤性乳管がんに分けられます。

非浸潤性は約20%を占めますが、この場合には基本的に切除してしまえば、治療は終了です。 そのため手術が主軸です。 浸潤性の場合には薬物療法が主軸になります。 針生検でがんの性格を診断し、その性格によって治療法が異なります。

ホルモン受容体が陽性のタイプであれば、ホルモン治療が効きます。 逆にホルモン受容体が陰性のタイプはホルモン治療が効きません。 HER2受容体というものを調べて、陽性であれば、分子標的治療薬のハーセプチンなどが効きます。 最近では、ホルモン受容体(+)HER2(?)タイプの乳がんで、がん細胞がどのくらい細胞分裂しているかを調べて、 それが多ければ抗がん剤が良く効く、少なければ抗がん剤は不要という推定をすることが一般的です。 保険適応ではありませんが、がんの遺伝子を調べて抗がん剤が必要か不要かを調べられる Oncotype Dxという検査もあります。

浸潤性乳がんに対して、手術、薬物療法、放射線療法のいずれかの方法だけで完治を得ようとするのは、まだ確証が得られていません。 薬物療法や放射線療法によって、画像上しこりが消えたように思えても、 本当に消えているかどうかは手術をしてみないと分からないため、手術はまだ必要と考えられています。 現時点で手術をしない治療方針は実験的な医療であり、「臨床試験」の段階です。 医師からの説明を受け、自分が被験者になっても良いと思えれば受けていただきたいですが、 ただ単に手術が嫌だからといって、臨床試験以外の方法で参加するのは避けた方が良いと思います。

積極的に理解、治療を

治療法の進歩により、予後(今後の病状についての医学的な見通し)は改善しています。 アメリカのあるがんセンターが発表したデータでは、転移性乳がんの生存率は年々改善しています。 標準治療法を受けた方が、そうでない場合(無治療、民間療法など)よりも予後が良いというデータもあります。

乳がんと診断された場合には、まず自分に合った標準治療がどのようなものか、 それ以外の治療法を受けるメリットとデメリットは何か、よく理解して治療法を選択してもらいたいと思います。

それぞれの治療法についてここで詳しく述べることはできませんが、 日本乳癌学会出版の「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」などを参考にして、 自分に合った治療法にどのようなものがあるのか、できる範囲で調べることも、 後で後悔しないためには必要なことだと思います。 分からないことはなんなりとお聞きください。 できるだけ分かりやすく説明させていただきます。

外科 船越拓

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