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慢性膵炎について

慢性膵炎診療

〜その夜明けを願って〜

40年来の早期症例に基づき

慢性膵炎診療










  2015(平成27)年10月10日発行
  著 者 高田征尚
  発行者 高田征尚
  発行所 医療法人防治会 いずみの病院
  発売元 高知新聞総合印刷



早期診断で慢性膵炎を治そう

〜多弁の臓器膵臓〜

早期診療で慢性膵炎を治そう










  2020(令和2)年1月10日発行
  著 者 高田征尚
  発行者 高田征尚
  発行所 医療法人防治会 いずみの病院
  発売元 高知新聞総合印刷




早期診断で慢性膵炎を治そう〜多弁の臓器膵臓〜

 私が消化器外科医として医学の道に入って早くも55年近くになる。
 最初の頃、外科に紹介されてくる胃癌や膵臓癌等の悪性疾患は全て末期症例で、術後生存率は惨憺たるものであったが、医学の進歩は目覚ましく、早期診断が可能となった胃癌は異質の疾患と見間違うほど生存率が向上した。
 一方、膵臓は次々と新しい機能検査、画像検査が生まれたにもかかわらず、膵癌の術後生存率は向上しなかった。
 それだけでなく、良性疾患である慢性膵炎も膵管空腸吻合術等の姑息的な手術しか行えず、急性膵炎(慢性再発性膵炎)も他臓器疾患にはみられない高度な癒着を伴い、DICを併発した症例では出血傾向が強く癒着剥離が不可能で膵臓に達することすらできず、劇症膵炎では膵壊死・膵周囲壊死部のドレナージしか方法はなく、手術は困難を極め治癒率の向上は全く認められなかった。
 しかし、慢性膵炎という言葉が臨床的に用にいられるようになったのは、1963年の第一回マルセイユ国際膵炎シンポジウム以降で、日本では1965年頃からであり、慢性膵炎の概念すら一般臨床医には知られていなかったので、診断・治療が難しいのは致し方ないことであった。
 このような“医学の真空地帯”と言われていた慢性膵炎を広く知らしめるために、『慢性膵炎診断基準』が1971年に制定されたが、本基準は、誰からも異論が出ないように、“急性膵炎と慢性膵炎とを違う疾患概念”としたマルセイユ国際膵炎シンポジウム(1963年)の概念を取り入れ、“膵病変が進行した典型的末期状態”を慢性膵炎として、見解の統一を図ったもので、診断できるのは既に治療機会を失した末期膵炎だけであった。
 当然、このような『診断基準』に異論がある臨床医も多く、“形態学的にも機能的にもこの基準に該当しない軽度の慢性膵炎の存在を考慮して”、『基準』に該当しなくても慢性膵炎が疑わしい症例には、《臨床的疑診》と診断して治療ができるように心配りがなされていた。
 臨床経験から、この『基準』に疑問をもった私は外国文献を調べ、『急性膵炎を繰り返すたびに膵実質細胞の壊死変性、破壊と線維化が進行する状態を慢性再発性膵炎;1946年Comfort』『剖検例で慢性膵炎に膵癌発生が多い;1950年Mikal』『急性膵炎も慢性膵炎も一つの疾患の経過を示すに過ぎず反復する炎症によって次第に増強する線維化が慢性膵炎;1960年Howard』の概念が、自分の臨床経験で培われた考えに完全に一致していることを確認した。
 それ以後、診断の遅れが慢性膵炎を難治性疾患にしているだけでなく、膵癌をはじめ、さまざまな合併症を誘発していると確信し、《臨床的疑診》を用い、『診断基準』に該当する前の早期慢性膵炎診療を心掛けている。
 取り敢えず、臨床症状、膵臓を含む総合的な機能検査、エコー、ERCP所見を総合して、時には、後腹膜気腹、リンパ管造影、Seldinger法による腹腔動脈領域の血管造影を加え、他疾患を除外した上で慢性再発性膵炎と診断した。
 1978年に膵炎治療薬であるFOYが発売されてからは、治療効果が歴然と現れ早期慢性膵炎診断に自信が持てるようになった。
 特に、1985年に膵炎の経口治療薬であるフオイパンが発売されてから、早期慢性膵炎患者は通院治療が可能となり、遠方からの患者さんも容易に治療できるようになった。
 1995年に臨床面を重視したと称する『慢性膵炎臨床診断基準;日本膵臓学会』改訂が行われたが、末期症例だけを慢性膵炎とする概念を踏襲しているだけでなく、《臨床的疑診》を慢性膵炎とは認めておらず、早期慢性膵炎診療の道は閉ざされた。
 放置された慢性膵炎は、確診所見である膵石や膵管拡張等の画像所見を呈するまで再発再燃を繰り返し、その度に、活性化し強力な化学物質に変化した膵液は慢性膵炎を増悪し難治性にするだけでなく、全身に逸脱して多臓器に刺激を与え炎症を繰り返し、癌を始めとする難治性疾患を誘発している。
 2009年『慢性膵炎臨床診断基準』改訂で、早期慢性膵炎が定義されたが、相変わらず既定の概念を踏襲しており、早期症例は慢性膵炎と診断できない。
 本基準に該当するのは末期症例だけで、このような『診断基準』が存在する限り、いくら先進機器で検査を繰り返しても、早期症例は全て「異常なし」「腹痛」「機能性ディスペプシア」「便秘」「下痢症」「メニエール病」「パニック障害」等等の診断名で転医・検査を繰り返すことになる。これが慢性膵炎の現状である。
 医者にも家族にも理解されず、数十年も放置されている患者さんの悩み苦しみは察するに余りがある。
それだけでなく、不必要な先進機器による検査の繰り返しで膨大な医療費の無駄遣いにつながっている。
 1970年代から早期慢性膵炎診療を行ってきた私は、2年もすれば慢性膵炎の概念が変わり早期慢性膵炎診療が常識になるだろう、あと2年もすればと思い続けながら、いつの間にか40年以上が過ぎた。
 その後の状況を文献で確認したが、『慢性膵炎は発症から確診に至るまで10〜20年を要す。早期慢性膵炎の前向き研究中で、答えが得られるのは10〜20年後である;医学のあゆみ Vol.256 No.2 2016年』『早期慢性膵炎の診断のためには、感度・特異度の優れる新たなバイオマーカーや画像診断技術の開発が必須である;日消誌 2017年』『慢性膵炎の予後は芳しくなく、より早期での慢性膵炎診断が必要である。早期慢性膵炎については画像所見、とくに超音波内視鏡(EUS)の所見が提唱されている一方で、慢性膵炎の病理組織像は末期の膵炎について報告されたものが多く、早期慢性膵炎についてはほとんど見られない。慢性膵炎は膵癌のリスク因子でもあり、実際、本邦全国調査では慢性膵炎患者の3.8%に膵癌を合併すると報告されている。早期慢性膵炎の病理学的知見の収集が望まれる。;胆と膵Vol.41 No.6 2020年 6月』等、今なお、末期症例だけを慢性膵炎と診断している。
 しかし、“早期慢性膵炎については画像所見、とくに超音波内視鏡(EUS)の所見が提唱されている一方で、慢性膵炎の病理組織像は末期の膵炎について報告されたものが多く、早期慢性膵炎についてはほとんど見られない”は奇しくも、現行『慢性膵炎臨床診断基準』『慢性膵炎診療ガイドライン』の瑕疵を的確に指摘している。
 影絵に等しい超音波内視鏡(EUS)所見に異常が認められるほど進行した状態を早期慢性膵炎と診断していては、病理組織像に末期の膵炎しか認められないのは当然である。
 診断の遅れが予後に重大な影響を及ぼす慢性膵炎は、『診断基準』『診療ガイドライン』に該当すれば既に手遅れと心得ねばならない。
 なお、“早期慢性膵炎の診断のためには、感度・特異度の優れる新たなバイオマーカーや画像診断技術の開発が必須”と言っているが、医学の進歩は目覚ましく、すでに、有り余るほどの早期診断方法がある。
 問題はバイオマーカーや画像所見を読み解く知識が有るか否かにかかっている。
 早期診断・早期治療の方法があるのに、これ以上、現況を放置することは医師の責務に反すると考え、 『慢性膵炎診療〜その夜明けを願って〜 40年来の早期症例に基づき 2015年』を出版し、臨症例を基に私の慢性膵炎診療方法の概念を示したが、“具体的な記載がないので理解しがたい。もう少し詳しく説明してほしい”と先生方から指摘を受け、『早期診断で慢性膵炎を治そう〜多弁の臓器膵臓〜 2020年』を出版した。
 全身の多臓器に障害を及ぼす慢性膵炎を簡単に説明する術はなく、現在、標準診療として用いられている『慢性膵炎診療ガイドライン2015』に考察・対案を加え、必要不可欠な基礎医学や診断方法を付記して、でき得る限り単純に私案を提示した。
 『診断基準』『ガイドライン』に該当せず放置されている、多くの早期症例が慢性膵炎として診断・治療されるようになれば慢性膵炎は進行することなく、病因不明の難治性合併症も激減するであろう。
 現状を傍観する余裕はありません。
 多少、複雑ではありますが、全身疾患である膵炎の概念を一度身に付ければ、自覚症状・検査所見から早期慢性膵炎診断につながる多くのヒントを見つけることができるようになります。
 全身の多臓器合併症も慢性膵炎診断の参考になりますが、各臓器特有の疾患を見逃さないように、除外診断は必ず行ってください。
 本書の早期慢性膵炎診療は、『診断基準』『ガイドライン』とは全く異質の理論で違和感があるとは思いますが、40年来の臨床エビデンスがあり、医師に認められている裁量権の範囲内にあると確信しています。
 また、本書は消化器外科医の臨床経験から自然に生まれた診断方法であり、全身に合併症を誘発する慢性膵炎は、専門分野により、各科それぞれの専門知識を活かした診断方法があると考えています。
 早期慢性膵炎診療の一助になれば幸いです。

   2020年7月17日

                          いずみの病院 健康管理センター  高田征尚




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